書くけど忘れること

つまり、忘れるから書くけど、書くから忘れるんだよなあ、つまり

2020-01-01から1年間の記事一覧

飽和金魚水

あ、待っててね、お水。お水持ってくるから——。 はい、(と彼女は気泡混じりの、旅先で買うなり作るなりしたであろうグラスに水を注ぎ、テーブルの上に置いた)。 うちに来る途中で歩道橋渡ったでしょ、いなかった? 毛虫。あの歩道橋、隣に木があって、あれ…

海底山脈

崖崩れを見に行こう、と男は言った。女の子と男の子はリビングでお人形遊びをしていた。熊の隠し子の狐は宇宙飛行士になり、腹違いの弟である兎に会いに月まで行くところだった。そこに洗顔と歯磨きを終えた男がやってきて、この間の大雨で山が崩れたみたい…

精神的マティーニの法則

彼女は月に一度、コンテンポラリーダンサーになる暮らしをしている。 音楽も、あらかじめ決まっている振り付けも、物語もない。ただ薬をのみ、血を垂れ流しながら、苦痛を紛らわせることを目的に、マンションの一室で気絶するまで踊り狂う。パフォーマンスは…